担当研究員の思い
小山 弓弦葉(東京国立博物館 工芸室長)
当館に 遺 された記録によれば、重要文化財「 小袖 白綾地秋草模様 (通称〈 冬木小袖 〉)」は、伝来を示す巻物とともに明治期に東京国立博物館(当時は東京帝室博物館でした)が購入しました。 列品録 とよばれる古い収蔵品目録によれば、当初は裏地がついておらず表地のみの状態でした。その後、展示ができるように裏地をつけて着物の形に仕立てたのでしょう。
私が初めて〈冬木小袖〉を展示したとき、写真で見るのとはあまりにも異なる 傷 み具合に 愕然 としました。遠目には美しくしっとりとした秋草模様の 描絵小袖 ……ところが、近くで見ると、白い裏地に 並縫 いでザクザクと縫いとめられていて、まるで 野良着 の 刺 し 子 のようだったからです。この並縫いは、当館が所蔵して以降、きものの形に仕立てられた際になされたものですが、太くて白い糸で広範囲に施され、せっかくの尾形光琳の筆使いが見えません。そればかりか、300年の時を経てすっかり弱っている絹地に、さらに負担をかけています。現状でも展示することは可能ですが、並縫いの糸が表地には強すぎて、このままですと、絹地がますます弱ることは明らかです。
光琳直筆による描絵小袖で完全な形で 遺 されているものはこの1領だけです。〈冬木小袖〉を、今後、100年、200年と後世に伝えていくためには、必要な修理を、今、始めなくてはならないのです。
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